石田泰のイタリア通信

イタリア通信 2013年4月29日

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2013/07/10 11:12  RssIcon

エンリコ・レッタ政府の誕生

4月28日のレプッブリカ紙は<病のイタリアに有力な医者現る>と社説に掲載した。ナポリターノ大統領から組閣に失敗したら総選挙、後がないと首相に指名されていた最後のカード、民主党副書記長46歳のエンリコ・レッタは2カ月に及ぶ政治空白を終わらせ新政権を誕生させた。21閣僚の平均年齢は53歳と若返り、女性閣僚が7人で内一人は黒人、市民権担当相に就任した。同日午前11時30分PD,PDL,中道派から支持を取り付けた閣僚宣誓式が大統領府で執行中、首相官邸前広場で警戒中の国家警察官2人が銃撃で重軽傷を負い、TVを見ていた人々は騒然となった。犯人はすぐに取り押さえられ南イタリアから出てきた49歳になる左官工で失業者だった。曰く、<自分はすべてを失ったのに政治家は裕福だ。政治家を撃ち殺そう。しかし政治家が一人も居なかったので警官に向けてピストルを撃った。自分も自殺しようと想ったが実弾が無くなっていた。>ショッキングな動機ではないか。

4月24日にレッタ氏は大統領官邸で大統領から組閣を要請された会談後、「大きな責任を感じる。全ての政治勢力とその責任感に訴えたい。若年層の失業対策と政治改革にまず取り組み、失われた政治の信頼を取り戻したい。重要な改革は全て、可能な限り最大数の参加者によって、ともに実行されなければならない」と語った。レッタ氏はベルルスコーニ政権で官房長官を務めたジャンニ・ レッタ氏の甥に当たる。

大統領選挙会

2月の総選挙で下院でかろうじて勝利を収めた中道左派だが、上院は過半数に届かない少数勢力のねじれ国会を生んだ。ナポリターノ大統領は最初に民主党書記長に政権取りまとめを委ねたが、PD書記長ベルサーニは「五つ星運動」との連立協議に失敗した。このねじれ国会はそのまま大統領選挙会に移され4月18日に始まった大統領選挙会(上下両院の議員と20州代表者で選挙人は1007人)で民主党が大統領選挙会で最初の4回目までの投票で元首相のプロデイとダレーマ2人の有力な長老候補を推薦したが、若手101人が大造反し中道左派が分裂し、後任を選出できず書記長ベルサーニは辞任表明。政局は混迷を深め、左右両派は国内で人気が高くUE諸国はじめ海外でも評判が良いナポリターノ大統領に続投を哀願し、ナポリターノ氏は考えを変えて受託せざる得なかった。4月22日に2期目に就任したナポリターノ氏は87歳、高齢の同氏は当初、続投はしないと言明していた。

ユーロ圏で3番目の経済規模を持つ大国イタリアは共和制政治開始以来、過去に大統領が再選される事は無かった。彼が任期7年の2期目に再選されたことはイタリア諸政党の惨状を示してもいる。
余談だが1976年の初夏、筆者は当時、総評の代表団通訳としてイタリア労働総同盟の大会最終日に当時の書記長ルチャーノ・ラーマンとイタリア共産党経済局長を務めるナポリターノ氏にお会いした。全国大会が無事に終了して2人は総評代表団にあいさつしたあとで<明朝は魚釣りに行くんだ!>と彼等はくつろいでいた。それから30年後にナポリターノ氏が大統領に成り、更に2期とは本人も考えつかない事であったであろう。

PD民主党分裂危機

民主党書記長ベルサーニが政党連合連立協議に失敗した大きな原因は2つある。
1, 世代間交代を巡る党内抗争で若手との乖離、<特にベルルスコーニの党とは一緒にやれない>シニア派は「五つ星運動」に連合を働きかけたが、<PDは死んだ党>として拒否された。
2,一方の若手を代表するレンチ・フィレンツエ市長はベルルスコーニの党との連携。
この結果、左翼連合内とPd党内の調整に失敗してグリッロ氏の“無政府的反乱”を押さえられる力は左派連合にはない。レッタ新政権への信任は統一したが現在PDは10の派閥があり党分裂の縁に立たされている。大統領選挙会では傘下にあったSEL左翼はPDの候補者には投票せず「五つ星運動」に同調した。世論調査ではPDの若い中道左派指導者であるレンチ・フィレンツエ市長は30代で若く、人気がありPDを再建させる可能性を秘める人物だ。PDは党大会を開いて新しい書記長を選ぶがそれまでの間は<摂政職>がつなぐと言う。

政界台風の目になった「五つ星運動」

コメディアン出身のグリッロ氏が率いる新党「五つ星運動」は大統領選に参加したが、ナポリターノ氏の再選を「小さなクーデター」などと批判した。国家を揚げて記念行事が行われる4月25日はイタリア解放記念日で祝日、イタリア人が現代イタリアを語るときの原点は解放記念日だが五つ星運動の下部組織では4月25日の記念行事に参加しているし、支持者の60%以上はPDとの連携を唱和している。
しかし、グリッロ氏は<4月25日は死の日:反PD反PDL, 反メデイア、反ナポリターノ、反労組>と現行の諸制度を否定して無政府を鮮明にした。

院政を狙うベルルスコーニ?

ベルルスコーニ氏は23日の大統領との会談後に記者団に、PDL自由国民は「短期で終わらず、重要な決定を行うことができる強力な政権」 を望むと、連立を促す発言をしていた。 新首相のレッタ氏は民主党だが、ナポリターノ大統領の再選により首相指名に至る結果は最終的に利を得るのはベルルスコーニ前首相になるだろう。ベルルスコーニ氏が政治に関 わり続けている最大の動機は、係争中の4件からの免責確保だ。現在、世論調査では中道右派連合が優勢だ。しかし、イタリアを破綻寸前まで追い込んだ彼に同じ過ちを繰り返すことを許してはならな い。イタリア人にとって最悪はベルルスコーニ氏の院政であろう。ベルルスコーニ氏がレッタ氏の首相就任に協力したことで、氏の保身度は上がりもし、レッタ政権がベルルスコーニ氏の個人的利益や政治路線と対立する行動を採れば議会で過半数を掌握していないレッタ政権をすぐに首切る事が出来る。更に好都合なことに、政権に加わらず裏で糸を引くことで、実質的にイタリアを支配する院政を敷く可能性がある。彼はイタリア経済的苦境の責任を負わずに済む。そしてユーロ通貨に対する懐疑者であるベルルスコーニ氏はドイツがユーロ問題の元凶だという批判を以前にも増して「五つ星運動」と効果的に展開できるようになろう。また、グリッロ氏の無政府的な五つ星運動がもたらし かねない混乱からイタリアを救う救世主として振る舞うことが可能になる。現状「五つ星運動」を抑えられる政治組織は困ったことに中道右派の自由国民(PDL)と合意連合しなければ抑えられない。

レッタ新政府の任務

PDベルサーニ書記長の政権樹立交渉が破産したあと、大統領は10人の賢人を選び新政府を誕生させる為に賢人5人には経済発展、他の5賢人には国の制度改革を諮問した。大統領は左右連合の議会から支持を得られる最低不可欠な合意を条件に答を求めた。2つの賢人グループは4月12日大統領に答申した。レッタ新政府と議会は当然答申結果を踏まえて議会審議をすることになる。
賢人グループの答申内容は
経済政策
*失業と貧困を減らす経済政策、
*一時帰休制度保険に10億ユーロを補給
*労働に関する税金制度の公平化と減税
*導入された固定産税IMUの見直し
*労働生産性を高めるための規制緩和
国家の制度改革
*2院制度を廃止して下院の議席数を現行630から480議席に減らす、 上院は120の参事会で州議会員を州人口で配分
*政党に対する補助金は必要、しかし現行制度は見直し
*国民投票の必要署名数を引き上げ見直し、
*首相の職務権限の強化
*現行の選挙法は違憲の可能性あり、直ちに法改正が必要、但しフランス型の決選投票は拒否
*大統領職の権限強化は不必要

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